小説 カンナの恋
カンナは神戸空港のカフェのカウンターに頬杖ついて、海に沈む太陽を眺めていた。沈みゆく太陽の彼方に、黄泉の国があるとは考えられないが、赤い太陽のすぐ後ろに永遠の世界が広がっているような、そんな心地よさを味わいながら、うっとりと、夕日を眺めていた。 カンナは夫の骨壺を、空想の中で、海の水平線、沈みゆく太陽のかたわらに置いてみた。何の変哲もないつるつるとした光沢のある白い骨壺。太陽に比べたら、本当に小さい骨壺が、海面に揺れながら、楽しそうに波と戯れている。 カンナは今、夫の遺骨を青梅の夫の両親に預けて、神戸空港に帰って来たばかりだった。 もう家に帰っても夫の遺骨さえなくなって、本当に一人ぼっちになったのだ。カンナは彼方の骨壺に向かって、さよならというように人差し指を左右に振った。 「奥様、ハンカチを落としていましたよ」 カンナが我に返って横を見ると、隣に座っていた男性が、ハンカチを拾って、カウンターにおいてくれるところだった。 その顔を見たとき、何か懐かしいものがカンナの胸に広がった。その顔はどこかで見たことがあるような ‥ 。 「すみません。ありがとうございます」 「どういたしまして」 それだけで会話はとぎれてしまった。 いい感じの人だという思いが胸の中に広がっていく。何か会話の接ぎ穂がないかと思いながら、ハンカチをもじもじと掌の中で揉んでいるうちに、太陽は沈み、暗くなった水面と一緒に、骨壺は見えなくなってしまった。 カンナは隣を強く意識し、会話の接ぎ穂はないかとあれこれと考えた。美しい夕日に気をとられ、骨壷の幻影に見とれていたので、隣の様子がわからない。それでも何とか隣の男性とつながっていたいと思ったカンナは、「夕日がきれいでしたね」と話そうか、「今からどちらかに行かれるのですか」と問いかけようか、などと、思い巡らし ていた。 その時、 「お待ちどうさま」と、ウエイトレスが、隣の席にパスタを運んできた。 カンナはほっとした。チャンスはまだあると考え、自分も隣と同じことをしようと 思い、 「すみません、メニューお願いします」と、ウエイト...