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連載小説 秘められた青春 昭和の少女 芙蓉と葵 (5)

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この小説はフィクションです (6) 「寂しい寂しい」と言っていた響子は、その年の暮れには寂しいと言わなくなった。同じ百貨店でバイヤ ーをしている男性と、来春に結婚することになっていた。  下宿の台所でたまたま響子と芙蓉と美鈴が一緒になった時、 「私ここを来年の三月に出るのよ。結婚することになったの」と響子が言った。 芙蓉は驚いて、 「ええっ、どんな方と?」と聞いた。 「同じデパートに努めている人よ。彼は江戸っ子でね。何代か前までは、自分の家から駅まで全部自分の 土地を踏んで行けたという地主だったらしいわ。土地はだいぶ手放して駅前にマンションを建てている の。そこの一室を私たちの新居にしようとちょうど改装が終わったところなの。彼は慶応出ててね。すて きな人よ」 「もしや北海道に行かれた方?」 「ヤダ、芙蓉ちゃん、あの人じゃないわ。もしやもしや、興信所の人がここに来たりしても、そのこと口 外しないでね。美鈴ちゃんもお願いいたします」 「勿論です。そんなこと言いませんよ」 二人は固く約束した。 「私もね」と美鈴が切り出した。 「私も実は三月でここを出て、アイルランドに行くの。まだ誰にも言ってなかったけど」 「ええっ!美鈴ちゃんも!」 「私イギリスに行きたいと思っていたけど、両親がどうしても結婚して夫婦で行ってくれたら安心だと、 一人は許してくれなかったの。仕方なく結婚することにしました」 「まあ、男性にはあまり興味ないと言っていたのに?」と芙蓉は聞いていた。 「それは今も同じだけど、外国に行くチャンスだもの。同じ長岡の人で、製薬会社に勤めていて、一月か らアイルランドに転勤なの。実家に仲人さんが持ってきた話なんだけど、両親が家柄がいいと大乗り気で ね。お見合いしたの、外国に行けるから結婚を受け入れたわ」 「まあ」と言って芙蓉は絶句した。二人が結婚していく。美鈴は誰の手にも触れられてない清らかな身体 を持って。響子は絶えず男に抱かれていないと寂しいと言いつつ、そしていつも男性から満足な愛撫を受 けつつ、それを隠し持っていても尚且つ幸せな結婚を勝ち取っている。  自分はいったい何なのだろうか?せんせとのことを、不運にも交通事故にあったようなものだ、自分は 潔癖なのだ、とも居直れず、傷を抱えたまま、それでもなおあきらめきれず、柳原君を思い続けている。 心は無垢でも、自分は処女を...

連載小説 秘められた青春 昭和の少女 芙蓉と葵 (4)

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この小説はフィクションです (5)  いよいよ、四月一日になり、社会人となって入社式があった。旅行会社の中ではトップクラスの一流会 社に入社したのは、晴れがましいことだった。本社で十日間の研修を終えてから、店に出た。  店にいるのは、男性が三人、女性も芙蓉を含めて三人だった。新人の芙蓉は、朝一番にパンフレットの 詰まったキャスター付きの棚を外に運び出した。開店と同時に航空チケットを買いに来る人や、ツアーを 申し込む人で忙しかった。店の男性はみんな既婚者だった。新入社員の芙蓉に優しい人ばかりだった。分 からないことが生じたときには、手取り足取り教えてくれた。芙蓉は安心しきっていきいきと働いた。  ある日勤めから帰ってくると葵から手紙が届いていた。芙蓉は思い切って封を開けた。    芙蓉ちゃん、勤めはどんな?卒業おめでとうね。私の方はまだ相変わらずゼミやら講義やら、小学校の 先生になるために必要でピアノを習ったり、忙しくしています。  この間久しぶりで今井君にあったら、柳原君の話が出て、柳原君が京大の同じ工学部の才媛と付き合っ てるって聞きました。あのシャイな柳原君がねえ、びっくりよね。これは想像だけど、彼女の方から接近 されたのじゃない?でもいい話よね。応援するわ。  聞いて!私ね、せんせとずっといい関係が続いているのよ。長い間私のこと気づいてくれなかって、自 分から先生を誘ってようやく深い関係になったでしょう。だから、嫌われないように毎日でも会いたいの だけど、気持ちを抑えて一週間に一度だけたずねていくことにしているの。せんせの都合のいい時聞いて ね。  せんせは優しいわ。せんせの手にかかると、私の体がとろけ出してしまいそうなのよ。私、せんせ大好 き。長ーく、恍惚の空を泳がせてくださるもの。芙蓉ちゃんも早く恋人見つけてね。芙蓉ちゃんは堅物だ から、好きな人の話も聞いたことがないし、ちょっと心配。芙蓉ちゃんもこんなことを知ったら、人生が ばら色に変わるわよ。    芙蓉はまた手紙を放り出した。せんせはあの時はそんなじゃなかった。突然だった。無理やりだった。 何の前触れもなく痛みが走った。あとは優しく介抱して私が困らないように元の通りに整えてくれたけ ど、虹色の夢の世界をさ迷わせてはくれなかった。  私が紺野医院の一人娘で跡を継ぐものと運命づけられてい...

連載小説 秘められた青春 芙蓉と葵  (2)-2

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               この小説はフィクションです。                            (2)ー2                    日比谷花壇大船フラワーセンターの温室で撮った花 (2022/6/20/写す) (2)-2の登場人物  紺野 芙蓉          東京の大家さん          梶原響子  大学4回生 下宿人 フランス語科          鈴原美鈴  短大2回生 下宿人 英文科  大家さんは、戦争未亡人だった。彼女は敷地内の離れの方に会社勤めの一人息子と住み、広い母屋の方を三人の女子学生に貸していた。芙蓉は、二階二部屋、下一部屋のうちの二階の東向きの部屋を借りた。  芙蓉のほかの二人の住人の内、一人は四年生大学の四回生だった。この人は二階の西側の部屋を借りていた。下の階にいるのは、同じ短大の二回生だった。  芙蓉はまE 短大に入ったのですって。上がって」と言っていきなり部屋に招じ入れられた。  出窓のある洋室にベッドが置かれ、ピンクのフリルのついた小花模様の可愛らしいベッドカバーが掛かっていた。そのそばには、洋風の背の高い電気スタンドがあった。芙蓉は一人掛けのソファーに座り、響子は勉強机の椅子に腰かけた。  部屋には香水の香りが漂い、響子は綺麗に化粧していた。 「私これから出かけるの。夜遅く帰ってくると思うけど、気にしないでね。もう私、3年生のうちにほとんど単位とったので、今年は卒業論文とあと二科目とったらいいの。私フランス語専攻だけど、あなたは何?」 「私は国文です」 「あら、そうなの。折角なら外国語とった方がいろいろ面白いのに」 「はあ」 芙蓉は思ったことをつけつけいう響子に驚き、これが都会というものかと思った。 「これから、あなたにもいろいろお世話になると思うけど、よろしくね」 と言って、コーヒーをサイフォンで入れてくれた。粉のインスタントコーヒーしか家では飲まなかった芙蓉は、これが上流社会というものかと恐縮した。  芙蓉は自分の部屋に帰った。芙蓉の部屋は和室で、布団を敷いて寝ることにしていた。お化粧はまだしたことがなかった。  階下の台所は、三人で共同で使うことになっていた。  芙蓉はご飯を炊くために台所に降りて行った。  すると下の住人が、お鍋を洗っていた。同じ短大の...