連載小説 秘められた青春 芙蓉と葵 (1)
(この小説はすべてフィクションです) 日比谷花壇大船フラワーセンターの温室で撮った花 (2022/6/20/写す) (1)の登場人物 紺野 芙蓉 杉野先生 芙蓉の母 高橋 葵 柳原君 今井君 ⑴ 芙蓉は庭の水仙を切って紙にくるみ、ピンクのリボンをかけて、杉野先生のマンションを訪れた。 マンションに杉野先生がいらっしゃるかどうかは、賭けのようなものだった。日曜日、先生は時々田舎の実家のほうに帰られる。芙蓉は胸をどきどきさせながらインターホーンを押した。 「おお、紺野か」という声が聞こえて、先生はガチャっという音を立ててドアを開けた。 「おお、上がれ、上がれ」と杉野先生は芙蓉の手をつかんで、廊下に引き入れた。 先生にじかに手を触れられたのは初めてだった。突然体が熱くなるような、先生に甘えたくなるような気持が予期もしないのに体の底からこみあげてきた。 芙蓉は女らしい科を作って、 「お邪魔します」と顔を赤らめながら言い、勝手知ったリビングルームのソファーに腰かけた。 「先生、今日は今井君たち、来ていないの」 「うん、今日は誰も来ないなあ。ところで、今日は葵は来なかったのかい?」 「ええ、今日は親戚の法事に出かけるらしくて、来れなかったの」 「そうか」と先生は言っていつものように紅茶を入れてくれた。 「せんせ、庭の水仙が綺麗だったので、持ってきたの。いつものバカラに活けていい?」 「おお、いいよ。いつもありがとう」 杉野先生は、レモンティを二つテーブルの上に置いて、芙蓉と向き合って座った。 「紺野は京都 I 短大に決めたのだね。もう心は定まったかい?」 「せんせ、私、東京の E 短大に行きたいと思うようになったのだけど、受かるかしら?」 「えっ、京都やめたの?どうして?」 「どうしてっていうわけでもないけど、東京は世界でも一番の都市だときいて、自分もそんな大都市に身を置きたくなったの」 「そりゃあ、お前の実力があれば、 E 短大なんか軽く受かるよ。でも、親は何て言っているの?」 「父は自分も東京の医科大学に行っていたので、反対はしないの。お母さんは、東京に女の子を一人でやるなんて心配だと言っているけど、卒業したらお婿さんを迎えてずっとこの病院を継いでいかなければならないから、ちょっとの間だけでも自由にさせてやりたいという気があって、強く反対できないらしい。私も卒業し...