2018年 マウイ島 滞在日記 7
★13日目 (8月28日・火曜日)
23 雀の事故死
リビングの網戸を開け放していると、スズメが一羽二羽入って来て床をちょんちょんと飛んで歩くのが可愛くて見ていた。
そこまではよかったのだが、三羽四羽五羽と入って来て、部屋の中を飛び始めた。丁度顔の高さの所に飛んでくるので、不意を喰らってキャーキャー言いながら、外に追い出そうとした。ほとんどの雀が出て行った後に、一羽だけがまだ飛んでいる。顔に当たりそうになったので、キャーと言って追い出そうとしたら、ガラス戸があまりにもきれいに磨かれていたので、雀は慌てたのかガラス戸に衝突してしまった。
音を立てて雀は落下した。いけない、死ぬかもしれない、と、とっさに思った。雀は足を上に向けて、あお向けになり動かない。でも、気絶しているだけで、今に起き上がって飛んで行ってくれるかもしれないと、じっと見守った。何とか、気絶から覚めて、くるっと体をひっくり返して飛んで行ってくれという祈りもむなしく、雀は微動だにしなかった。
死んでしまったのだ。私は悲しかった。ついさっきまで生きて飛んで騒いでいたものが、一瞬のガラスへの衝突によって、あっという間に死んでしまったのだ。雀にはまだまだ楽しい生があっただろうにと思うと、可哀そうで仕方なかった。
しばらく待ったけれども生き返らなかった。可愛い小さい目が静かに閉じられていた。薄い柔らかそうな瞼が閉じている。新聞紙で掬い取ると、自然に雀が裏返った。羽が美しい。日本の雀よりも茶が薄い、緑と黄みがかった茶色の羽はつやつやとしている。まだ生きているように。
あまりにも悲しい出来事だったけれど、取り返しがつかず、私は新聞紙の上の雀を、木の下の茂みの中に置いた。雀の姿は、叢に隠れて見えなくなった。何とも言えない悲しみが湧き上がって来た。
★14日目 (8月29日・水曜日)
23 海亀の甲羅干し
海亀が、コンドミニアムの前のちいさい砂浜に上がっていた。宿泊客が入れ代わり立ち代り崖の上から覗いて騒いでいる。
私も見に行った。目の前に一メートルもあるような大きな亀がいるのには感動した。多分この亀は、砂浜から二メートルぐらいの所で泳いでいて水面に見え隠れしていた亀だろう。
母親がここで亀と並んで泳いだと嬉しがっていた。自分がガバッと顔を上げたとき亀も同時に頭を上げて、その様子を前から見ていた外人がいて、「亀と同時に頭を出したね」と面白がってくれたと言っていた。
亀は、その日の夕方もじっと動かないでいて、翌朝もいて、午後いつの間にやらいなくなっていた。亀の存在感はすごい。ずっしりと重く、少々のことでは何があっても動かないと思わせる鈍に見える様子が、存在感を醸し出しているように見える。
私は浜に下りて亀に近づいて写真を撮った。すると孫が、亀の保護のため、触ったりするのは論外だが、あまり近づいてもいけないし、がやがや騒いでもいけないのだと言った。
多分無人島のモロキニ島で泳いだ時、そのような注意を受けたのだろう。そうやって気を使い、教育することによって、マウイの自然が保たれているのだと思った。
★15日目 (8月30日・木曜日)
24 キヘイへ
夕食後、孫が、ガイドブックで見たキヘイにあるカフェの有名なパイが食べたいと言った。
車に乗って走り回るのが好きな母親が、今から行こうと言った。私はキヘイというのは東島の方だから、ここから一時間はかかると思ったけれど、母親はあまりガイドブックを読む暇もなく日本から出て来たので、近いと思ったらしい。
「今から行っても無駄だよ」と止めたかったのだけど、横からくちゃくちゃと自分の意見を言って、皆のやる気をそぐと、いつも怒られていることなので、まあいいかと黙って車に乗った。
ラハイナを過ぎるあたりから、人家はなくなり、右手は海、左手は赤土の山という淋しい道を通って進んで行くうちに、日も暮れて来た。
途中までは道が分かっているが、それより先に進むと、行ったことのない道を行くので、暗い中で間違って戻ったりして、心細くなって来る。
孫は母親を信じているのか、スマホを見たり暢気なものだ。母親も、間違ったり、迷ったりしても自信があるのか平気である。
迷いながらもようやく目的のカフェを見つけた。
もう八時に近い。中に入るとがらんとしてお客はいない。もう少ししたら閉店だけどどうぞということで、ただ三人だけでパイを切ってもらって食べた。
お味はというと、日本でどこででも食べられるりんごパイなどと、ちっとも変わらない。
ただ一つの円がものすごく大きい。切り分けてくれても、元の円が大きいから、私らには食べきれなく、紙に包んで食べ残しを持って帰った。
混みこみのレストランやカフェもいただけないが、今日のようにだだっ広い所に、しかも夜の閉店前、三人だけというのもわびしいものだった。
こんな夜間に衝動的に来なくても、昼間ゆっくり来たらキヘイの町も散策できたのにと思ったけれど、二人が何も言わないので、すぐにまたもと来た道を一時間かけて帰っていった。
あの暗い夜道で、たまに明るいライトとすれ違うという光景は、忘れられないものになりそうだ。
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