2018年 マウイ島 滞在記6
★10日目(8月25日・土曜日)
⒙ 母親(私の娘)が来る
ハリケーンは熱帯低気圧に変わったらしい。午後4時ごろ母親がホテルに到着するという。私はほっとした。孫と二人きりだったのは昨日の夜だけだった。ホテル泊まりだから、晩御飯も苦労なくホテル内で食べられた。
孫は午前中に泳ぎに行った。私も今一度と泳ぎに行った。相変わらず、太ももどまりである。
海から上がって、孫が借りていた私の背丈よりも大きそうなボードを、私が脇に抱えて歩いていると、ホテルの入り口のベンチに座っている人たちの中の外人のおじさんが、何か私に聞いた。「それはあなたが使っていたのか?」と聞かれたような気がしたので、とっさに「マイ グランドサン」とだけ言った。すると、向こうはまた何か言った。「自分で使ったのかとびっくりした」と言ったのか「自分が使えばいい」と言ったのか、はたまた「孫に持たせろ」と言ったのかわからなかったので、ただ笑って通り過ぎた。愛想のない日本人だなと思われたかもしれない。軽いジョーク的な会話ぐらいしたいものである。情けない。
午後、母親は日本で運転したことのないような、滅茶苦茶大きいレンタカーを借りて、到着した。ハリケーンはそれたので、予定より一日早く、3人でホテルを出た。
コンドミニアムに帰ってみると、テラスに出ていたテーブルや椅子は部屋に運び込まれていた。そしてヤシの枝や木の枝が折れて地面に落ちていた。被害はそれくらいで、相変わらず、コンドミニアムには人々が大勢泊り、賑やかにプールや海やバーベキューで楽しんでいた。
★11日目(8月26日・日曜日)
⒚ 砂浜は事件か?
今朝は、ハリケーンの影響か、ゆうべからの雨が降り続いていた。海は黒っぽい緑色になっている。そのうち海の上の空は明るい灰色に変わって、いろいろな鳥の声が聞こえてきた。鳥も楽しそう。
10時頃、孫と母親がカーナパリの海に泳ぎに出かけた後のことだった。
目の前の芝生の砂浜に下りる階段の所で、二、三人の男女があわただしい動きをしている。階段の上から、砂浜を覗き込んでいる人や、スマホを耳に当てている人がいる。何事だろうと、リビングの中から見ていると、警官が二人やって来て砂浜に下りて行った。しばらくすると「FIRE」と背中にかかれているTシャツを着た人が四人現れた。
眼と鼻の先の出来事だから、走り出て行って自分も崖の上から下を覗きたいという衝動もあったが、いつもの小心者の性格が出て、いやいや事件にかかわらない方がいいという気持ちが働いて、じっと中から一部始終を見守っていた。
想像力だけは働いて、砂浜で人が死んでいるのではないかと思ってぞっとしたりした。ハリケーンの後なので、波が荒くて溺死体が打ち上げられたのではないか、はたまた、刃物で切り殺されている死体があるのではないかとか、ぞっとするような想像ばかりした。
「FIRE」のTシャツの人はなかなか上がって来ない。
しばらくすると、階段の下がざわめいて、「オーマイガッド」という女性の声がして、太ったおばさんが、薄物のワンピースの裾をひらひらさせながら上がって来た。先に上がっていた警官が、そばのパイプ椅子をとって差し出している。太ったおばさんはドタッと座り、溜息をついた。警官は何かその人としゃべってから、救急隊と一緒に帰って行った。
太ったおばさんも、仲間らしき人と一緒に部屋に帰って行った。想像するに、その人は貧血でも起こし、しばらく気絶していたのであろう。気が付けば、何事もなかったように正気に戻れたのだろう。事件でなくてよかったと私は思った。
⒛ サーファーの町「パイア」
午後になるとまた小雨が降ったりやんだりの天候になった。サーフィンに、強い憧れを持っている母親は、サーフィンを見に『パイア』に行こうと言って、私たち二人を積んでパイアに向かった。パイアはカフルイ空港から東の島に入った所であるから、だいぶ遠い。遠きをものともせずに行きつくと、海でサーフィンをしている人は一人もいなかった。天候が良くなかったのが災いしたのかもしれない。
海岸も海の色もどんよりと黒くマウイの明るさがなかった。
しかし町の商店には、センスのいい商品が多く並んでいて、じっくりと見て歩きたい所だった。ランチョンマットでほしいなと思うデザインがあったけれど、昼ご飯を食べていないので、皆が急ぐので買えないでしまった。
レストランに入り、私はソフトタコライス、二人はハンバーガーを食べた。ソフトタコライスは量が多く、半分しか食べられなかった。
夜遅く、私は芝生の先の崖っぷちの所のベンチに腰かけて、心地よい風に吹かれながら、真っ暗な浜に打ち寄せる波の音を聞いていた。
★12日目(8月27日・月曜日)
21 白鯨・エイハブ船長
今日は、孫と母親は、北の方に魚と一緒に泳げる海があるということで出かけて行った。私はコンドミニアムに残り、洗濯や片づけをしていた。
ふと、リビングの棚に飾られている船長さんの像を見ると、片足が棒になっている。はっと、私は気づいた。これは、マッコウクジラに片足を噛みちぎられた、小説『白鯨』の中の気難しい船長エイハブの像だと。私は何故か詩など作ったことがないのに、詩を作ってみた。
『マウイに風が吹いたとき』
マウイに風が吹いたとき
彼と彼女は恋をした
マウイに風が吹いたとき
空が割れて光が射した
マウイに風が吹いたとき
海は碧く波だった
マウイの海に虹がかかり
ふたりは虹を歩いてく
やがて虹が消えたとき
二人は空に舞い上がり
未知の世界に飛び立った
彫像になったエイハブは
彼方の二人をじっと見つめる
孫と母親は三時頃帰って来て、色とりどりの魚と泳いだと楽しそうに語った。
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