西行の和歌(年高みかしらに雪を積もらせて・・・)と自作小説 7
老人述懐
年高み頭(かしら)に雪を積もらせて
古りにける身ぞあはれなりける
西行 (聞書集)
佳寿(かず)は姿見の前に立って最後に帽子をかぶった。
さあこれでお出かけの準備は整った。
帽子を被るのは、白髪染めに行きそびれて、くっきりと白髪と黒い染毛の部分が分かれるのが見苦しいからだ。
駅に着いた。
佳寿はホームをよろよろと歩いた。
自分でも信じられないほどよろめいた。
なぜこんな歩き方になるのだろう。
こんなはずはないと思って普通に歩こうとするが、どうしても普通に歩けない。
ホームの狭い部分では、線路に落ちるのではないかと、細心の注意が必要だった。
佳寿は老人優先座席に座って目を閉じた。
龍宮城で遊んでいた過去の想い出が蘇ってきた。
高膳に盛り付けられて運ばれてきた数々の御馳走。
鯛や平目の刺身、水底の洞穴で醸造された酒にあわび。
それらを捧げつつ運んでくれた妖精たち。
龍宮城の神様が与えて下さった天の羽衣の着物を着て、
妖精たちと踊り暮らした日々。
ある日はこの妖精と、またの日はあの妖精とと、水を切って踊り暮らした日々。
佳寿は今白髪を頂き、足元おぼつかなく街をさまよう。
妖精たちが泡粒となって水底に消え果てた龍宮城を胸に秘めて。
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