次の写真「モラエス」を見て一句 モラエスや およねとコハルに 魅せられて さき女 Moraes was bewitched into two japanise ladies ,Oyone and Koharu. 自作小説『コハルとモラエス』 コハルは、引戸をあけて玄関に入った。奥から「コハルで」という母親の声がした。 「うん」とコハルは答えて、茶の間に上がった。 「どしたんで。おまはんが夕べ帰らなんだけん、おかあちゃんは心配しとったんじゃ。モラエスはんはな、年寄りじゃけん、まさかのことはせんだろうけんど、男はんには違いないんじゃけん、気い許したらあかん。夜は帰ってきなと言うただろう」 「うん、わかっとるけんど、ゆうべは熱を出したから、夜通し頭を冷やしとったんじゃ」 「そんなときはいっぺん帰って来な。そしたらおかあちゃんが変わって看病するけん」 「うん」とコハルは言って、浮かぬ顔をしていた。 母親も黙り込んで、コハルを見ていた。 コハルは、ゆうべ受けた衝撃から立ち直れなかった。何の予備知識もなく、一度も経験したことのない生まれて初めての衝撃が、身体を裂いた。それは母親にも言えない、隠さねばならないことに思えた。 その晩、仕事から帰って来た父親と、幼い妹と、いつもと変わりなく卓袱台を囲みご飯を食べ、夜なべ仕事の袋張りを手伝ってから、寝に着いたが、なかなか寝られなかった。 翌日、コハルはモラエスの所に手伝いに行かなかった。翌々日も行かなかった。母親は気が気でないらしく、モラエスさんが、不自由しているのでないかと、コハルに聞いた。 三日ほどして、コハルが買い物に出た後に、モラエスが、家に訪ねて来た。 「モラエスさんがみえて、コハルが来てくれんから、食事にも事欠いている、明日からどうしても来てほしいとゆうてみえたわ。気の毒だから、明日から行ってあげなはれ」 コハルは、モラエスからもらっているお給金がないと、この家の生活が成り立たないことを知っていた。そこで、決心して翌日からまたモラエスの身の回りの世話に行った。 モラエスは相好を崩して、コハルを迎えた。コハルはつっと顔を背けて、誇り高く寄せ付けないというような、凛とした横顔を見せた。モラエスはコハルの心を推し量り、衝動を抑え、コハルの心が開くのをじっと待っていた