投稿

11月, 2022の投稿を表示しています

童話 大人も子供も大満足の満腹料理『ほっぺるぽっぺる』

イメージ
  満腹料理・大人も子供も大満足の「ホッペルポッペル」       加奈子は小川のほとりに座っていた。クリーム色のサテンのブラウスに、赤と黒の格子縞のフレアースカート、それに、白いソックスとベージュ色のスニーカーを履いていた。  柔らかい日差しがもうすぐ春が来るのを告げていた。  流れの早い小川の水はきらきらと光っていた。時折、枯れ葉が加奈子の目の前を過ぎていく。赤ん坊の手のひらのような小さな枯れ葉や、グローブのような大きな枯れ葉が、気持ちよさそうに水と一緒に滑っていく。  加奈子は、浮きつ沈みつする枯れ葉を、美しいなあと思いつつ眺めていた。  川の底には、薄紫色や茶色や白い石が水に洗われて、涼しげに座っている。  春がもうすぐやってくる予感がした。  もう寒いのはうんざりだ。  高校入試もうんざりだ。  お母さんが、隣の部屋で自分を見張っているように、刺繍をしているのもうんざりだ。  早く桜が咲いて、ヨウスケと土手の桜を見に行きたい。  枯れ葉がまた流れてきた。 川下のヨウスケも、この枯れ葉を見ているかしら。 「ヨウスケ!」と、加奈子は声に出して呼んでみた。 すると、また流れてきた枯れ葉が、川のへりに押し流されてきて、加奈子の足元の草に引っかかって止まった。 ふと見ると、その枯れ葉に黒々とした墨で「加奈子さま」と書いてある。 ええっ、と、加奈子はその枯れ葉をすくいあげた。 裏を見ると、「今日私たちは加奈子さんを食事に招待することになりました。この川をずーと上がって来て、どんぐりの木の広場に来てください。お待ちしております」<ポンポコリンとコンより>と書いてある。 ええっ!これは何なの?ポンポコリンって誰なの? 加奈子が不思議に思って、枯れ葉を目の上にあげてつらつらと眺めていると、また茶色い枯れ葉が加奈子の足元の草にひっかかって止まった。 「加奈子さまへ」とまた書いてある。「怪しいものではありません。ヨウスケ君はもうトウチャクしております」と書かれていた。 えっ、ヨウスケも行ってるの?「イク、イク」と言って、加奈子は小川の脇道をどんどん登って行った。  まるで風になったように急な坂道も駆け上り、人の足跡も途絶えて草がもこもこと生い茂っている所もものともせず進んでいくと、蛇が銀色の体をくねらせて、加奈子の足元を滑るように通って行った。 「おお、怖」と加奈子は一瞬足を止

藤沢市役所 高齢者支援課

イメージ
藤沢市役所の高齢者支援課というところから封書が来ました。 表書きに「地震等の災害発生時における避難支援希望確認書」在中と書いてありました。 洪水で取り残された老人がボートで救助される映像が目に浮かびました。 ああ、他人事と思っていたのに、私も十分老婆なのだわ。 それで、しばらく封もあけずに放っておいたのですが、やっぱり手紙をくれているのに、中に何が書いてあるのか想像だけではいけないと思って開けました。 想像通り、避難時に支援してもらいたい人のために申し込み用紙が入っていました。 その申し込み用紙を見て、町内会に入っているか否か、また、町内会の名前は何て言うのか書き込む欄がありました。 町内会入ってないし、名前も知らないし、めんどくさーと思いました。 「私なんか助けなくてもいいよ、もう十分生きたんだから」と独り言言って、一人で笑って 元の封筒に用紙を収めました。とさ。  

地元茅ケ崎のおネギが安かったということ

イメージ
 昨日辻堂のスーパーマーケットで、茅ケ崎産の安いおネギを見つけました。 ほかの産地の長ネギは一本で100円とかしています。 この茅ケ崎産のおネギはこれだけは入って199円。 諸物価値上がりの折に、安いと喜んでおネギの袋を抱くようにして持って帰りました。 しかし、と考えたものです。これを3人家族でどうやって食べる? もてあますのでないか? 買ったからには、腐らさないように。 頭を巡らし、さっそく豚肉と炒めました。             それで何本使ったか? 3本。残り数えてみると10本ありました。 さてこの10本、干からびさせないでどうやって使ったらおいしいか? 考えます。

連載小説 秘められた青春 昭和の少女 芙蓉と葵 (7)

イメージ
          この小説はフィクションです (7)  芙蓉は勤務先のみんなに惜しまれながら故郷に帰った。父母はようやく都会に見切りをつけて帰ってき てくれたと大喜びだった。 「あなたのいなかった四年間、火が消えたように寂しかったわ。お父さんも帰ってきてからレコードをか けて寂しそうだった。帰る決心をしてくれてありがとう」と母は言った。 そしてお茶とお花の先生の所に習いにやらせた。 「紺野病院のお嬢ちゃんなのね。東京から帰ってらっしゃったのね」とどこに行っても可愛がられた。愛 欲におぼれていた東京の生活は誰にも感づかれなかった。  葵は卒業して、市の小学校の先生になっていた。着々と自分の思い描いた道をそれず、努力して、なり たい学校の先生になっていた。それは見事な生き方だった。せんせとの仲はずっと切れ目なく続いてい て、とても幸せだわと言う。せんせが自分の欲望を満たしてくれる時の行為の優しさを親しい芙蓉にだけ のろけた。それを聞く度に、古傷が痛んだ。あの時の花瓶に挿した水仙の清楚な姿が目に浮かぶ。十八の 誕生日を祝ったばかりだった。せんせに犯されていなかったら、柳原君に接近できたかもわからない。響 子の行為に興奮してトムや修太朗との愛欲の道にそれたりはせず、ひたすら清らかな体と心のまま、柳原 君に対して自分を貶めることなく、あこがれを清らかに抱き続けることができただろう。柳原君が才女と 仲良くなっていて、自分の入りこむ余地がないとしても、清い体で思い続けることと、処女をなくした肉 体で思い続けることとはわけがちがうと、悔やんでいた。でも、それはもう忘れなければならないことな のだ。せんせと自分だけしか知らず、母も葵もそんなことはつゆ思わないことだったのだ。それをないこ とに出来たらどんなにか安楽だろう。でも、せんせは知っている。  芙蓉は間違った道に足を踏み入れてしまったと思った。その道は極彩色の豊かな道だったけれど、これ からは間違わずに正しく暮らそうと思った。  そんな時、父が芙蓉に縁談を持ってきた。同じ医大で学んだ人の甥で、家業のパン屋は兄が継ぐので、 弟の医者の方は、婿養子に行ってもいいと言っている人だった。 「もう三十七歳でお前と一回りも違うのが気にかかるがどんなものだろう」と父は言う。母は養子に来て くれるというだけで気に入って、 「それぐらいの年の離

連載小説 秘められた青春 昭和の少女 芙蓉と葵 (6)

イメージ
               この小説はフィクションです                                                                 (7)     年を越し春が来た。響子は結婚して出て行った。美鈴もアイルランドに行く準備で、長岡の実家に帰っ た。学生生活の延長だった女の園の下宿は解体した。  芙蓉はまだ結婚できず、一 DK のマンションに移った。これからは一人でしっかりと生きていかなければ ならないと決心していた。会社の窓口業務には慣れ、芙蓉を名指して来るお客さんも出てきた。芙蓉にこ っそりと外国土産を渡してくれる人もあった。芙蓉はどのお客さんにも愛想よくにっこりと笑って接し た。  勤務を終えて夜マンションで一人でいると、寂しさがこみあげてくる。どうしても忘れられない柳原 君。柳原君は殿上人で、才能のない自分は自分を卑下していて、決して自分から自分の気持ちを打ち明け る勇気はなかった。心は枯れ木のようだったのに、体は柳原君に向かって、自分では気づかないうちに、 全開していたのだ。せんせは私の自覚のない欲望する姿に気づいて、せんせ自身も欲望の極に達してしま ったのだ。それにしてもせんせは厳しすぎる。ただ一度で、あとは取り付く島もなく何もなかったように 振舞うのだから。葵が私の親友であったのを知っているはずなのに、葵には繰り返し優しくしてあげて、 結婚まで約束している。せんせの気持ちが分からい。私が家の病院を受け継がなければならない運命にあ る人だからか。親戚一同が町の名士と言われるからか。  柳原君が才女と恋に落ちているという噂を聞いて、気持ちが折れてしまった。そして、葵が言ってくる 長ーく天上をさ迷う有頂天の喜びも知りたくて、また響子の毎夜のあえぎにも好奇心いっぱいで、自分の 方からトムに身をまかせてしまった。こんなことを経験してしまった自分は、柳原君にはふさわしくない と思い続けた。  芙蓉には、柳原君が自分のことを何とも思っていないということもわかっていた。それでもなお、柳原君のことを想い続けた。  その柳原君が才女と一緒にアメリカの大学に留学するらしいという噂が、葵を通して聞こえてきた。芙 蓉は目の前が真っ暗になった。  葵は芙蓉が柳原君を好きだということを知らなかった。高校でも数年に一度排出するかしない